1-3. スペクトルとキャリア周波数 / PWM波形再現

前回:1-2. 信号波とキャリア

はじめに

今回は今までに得た知識を使って音を作り、そのスペクトルを見ていきます。最終的に、VVVF(可変電圧・可変周波数)を実現するための変数の操作方法と、電車の音の主成分であるキャリア周波数$f_c$がモーターの回転速度に関係なく設定できるということを示します。

スペクトル画像の生成にはWaveToneを使いました。

なお、キャリア振幅A_cは1で固定しています。また、音は線間電圧です。

すべての変数を固定

まず

  • キャリア周波数$f_c$を1050Hzで固定
  • 信号波振幅$A_s$を1で固定
  • 信号波周波数$f_s$を50Hzで固定

というパターンのスペクトルを見ます。一応、音量に注意してください。

時間的な変化がない単純な音になりました。

信号波周波数$f_s$を変える

次に

  • キャリア周波数$f_c$を1050Hzで固定
  • 信号波振幅$A_s$を1で固定
  • 信号波周波数$f_s$0→50Hzに上げる

というパターンのスペクトルを見ます。

上でやったものよりもスペクトルがかなり変わっていますね。信号波周波数$f_s$を動かすだけでも大きく変化します。

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図1

右下に見えているカーブは信号波周波数$f_s$と同じ成分です。

信号波振幅$A_s$を変える

次に

  • キャリア周波数$f_c$を1050Hzで固定
  • 信号波振幅$A_s$0→1に上げる
  • 信号波周波数$f_s$0→50Hzに上げる

というパターンのスペクトルを見ます。

初回の線間電圧のサンプル音に近づいてきましたね。インバーターは、信号波周波数$f_s$を上げるのと同時に信号波振幅$A_s$も上げています。

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図2

VVVFは可変電圧・可変周波数という意味ですが、VVVF信号波振幅$A_s$可変と信号波周波数$f_s$可変によって実現されます。

キャリア周波数$f_c$を変える

最後にキャリア周波数$f_c$も変えていきます。

  • キャリア周波数$f_c$1050→1050→700→1800Hzにする
  • 信号波周波数$f_s$0→50Hzに上げる
  • 信号波振幅$A_s$0→1に上げる

というパターンにします。

一番よく聴こえる音が一定→下がる→上がる、という動きをしていることがわかるでしょうか。

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図3

このよく聴こえてくる音の正体はキャリア周波数$f_c$に由来していて、これは信号波周波数$f_s$に関係なく設定できます。有名なドレミファインバーターキャリア周波数$f_c$を音階状に設定しています。有名といえば、E231系の近郊型の墜落インバーターもそうですね。わかっていた人もいると思いますが、先ほど作った音は墜落インバーターの設定を真似ています。

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図4

余談ですが、通常は信号波周波数$f_s$が上がっているときにキャリア周波数$f_c$を下げることはありません。しかし墜落インバーターではそれをしていて珍しいため「墜落」と呼ばれたということが考えられます。

初回でお伝えしたとおり、電車のモーターから聴こえてくる音は線間電圧と同じ音になります。つまり、電車のモーターから聴こえてくる音のうち主なものはキャリア周波数$f_c$由来となります1。こうしたことから、電車の速度を上げつつ(=信号波周波数$f_s$を上げつつ)モーターから聴こえてくる音を音階状にするといった芸当が可能なのです。

まとめ

  • 信号波振幅$A_s$信号波周波数$f_s$を変えることでVVVFとなる
  • 一番よく聴こえてくる音はキャリア周波数$f_c$に由来する
  • 一番よく聴こえてくる音(キャリア周波数$f_c$由来)は信号波周波数$f_s$に関係なく設定できるので、音階状の音をモーターから鳴らすことも可能

キャリア周波数$f_c$」「信号波振幅$A_s$」「信号波周波数$f_s$」が多く出てきていたので、マーカーで色分けをしました。ご活用ください。


  1. これが言えるのは低速域だけで、実際は高速域になるとキャリア周波数$f_c$以外の音のほうが大きく聴こえるようなります。